原作カレーカイ6

※pixiv用のルビタグ付いたままで失礼します

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 屋台街は、古の時代に城砦が建てられていた立地を利用して開かれているらしかった。崩れかかった石垣に沿って五十メートルほど屋台が続いており、それが途切れた端には急勾配の上り階段がある。そこを上がると、屋台の天井を見下ろせる程度の高台になっているという。かつての城砦跡地だ。この時間は酔っ払いしかいないので誰も登らない穴場らしい。見慣れない顔のカイとレイに、初老の店主が英語であれこれと教えてくれたのだ。
 この辺りでは初めて聞く英語である。公用語の広東語は、カイはもちろん、レイも飯の注文以外さっぱりだったことが判明したので助かった。昔はもっとクイーンズ・イングリッシュを操る奴が多かったんだがね、とショットグラス片手に語り始めた店主には丁重に礼を言い、カイとレイは席を立った。
 店主の言う通り、石造りの階段を上った先は見晴らしの良い高台だった。城砦の跡はすっかり風化して更地になっており、背の低い石塀がわずかに残るばかりである。話の通り誰もおらず、下界の騒々しさと切り離され、温い風が静かに吹いている。塀に寄り掛かりながら、カイはレイに切り出した。
「さあ、約束通り話して貰うぞ。貴様が、汪のもとに残るという理由を」
 レイはカイの横に並んだ。そして一瞬だけ間を置いて、いよいよその重い口を開いたのだった。
「……おれたち牙族はふるい一族で、国の裏側の仕事をになっていた、という話は知っているな?」
「そういえば昔カントクが言っていたな。だが大昔のことだと聞いている」
「そうだ。今は、先祖だいだいの土地で静かに暮らしている、少数民族にすぎない。村の外の世界に出たがるのも、おれくらいだ。おれは年に数回、修行したり仕事しに外へ出る」
 レイの言う「外」とは、国をも越えた先を指す。カイにとっては至極普通のことだが、牙族のライたちの反応を思い出すかぎり、村では型破りな行いなのだろう。
「去年の春だったか。外から村に帰ると、騒ぎになっていた。おれたちの村のある土地の、正式な所有者だと名乗るものから、知らせがあったらしい。すぐにでも立ちのけという要求だった。もちろん、村の年寄会は突っぱねた。あれは牙の土地だからだ。だが今度は、国からの証明書をたてに再び要求がきたんだ」
 それが、去年の話だとレイは補足した。カイは、昨年の日本の大会にレイが来なかった理由に合点がいった。
「おれたちは、ずっと牙の土地で暮らしてきた。だが、いまの国の制度というやつでは、いつの間にか国の台帳に登録された、知らない誰かの持ちものになってしまうらしい。当然、納得がいくわけない。みんな怒りのまま、抗議を続けた」
「……その言い方だと、レイ、お前は違ったのか?」
「おれは……」
 カイの問いに、レイは少し言い淀んだ。カイとレイは日本語で会話をしているから、日本語でのうまい言い方を探っているようにも見えるし、自分の心を話すことに戸惑っているようにも見えた。
「おれも、相手を八つ裂きにしてやろうかという程度には、ちょっと怒った」
「ちょっと……?」
「でも、同時に思ったんだ。おれたちが、外の世界を知らなすぎたせいじゃないかと。国は法律で管理されていて、相手はそれにのっとって手続きをしたから、土地の所有者になった」
「牙族の伝統的な土地だと知っていながら、内密に進めたのだと思うがな。卑劣な策に思えるが」
「それでもだ。おれたちの目線は村で完結していて、世の中の、もっと大きな枠組みの中で暮らしているなんて自覚が、これっぽっちも無かった。だから、ことごとく先手を打たれて、いいようにされたんだ……そう思って、おれは、皆と同じだけの怒りを分かち合えなかった」
 レイの表情は平素と変わらないように見えた。しかしその言葉からは深い、悲しみに似た気持ちが伝わってくるようだった。一族の中で、自分だけが皆に寄り添えなかったという自責の念のようなものを感じる。
 それはカイには難しい感覚だった。しかし、レイの生まれついた共同体と、カイの暮らす社会はまったく違う。仕事上、そういう文化の違いには何百とぶつかってきた。その苦い経験が、カイをレイの理解へと導いていた。昔のカイでは考えられないことだった。
(それにしても、レイのこの視野の広さ……十年前、レイが日本に来たとき村の連中と揉めたわけだ。見えている世界が違いすぎる)
「……話がそれたな。つまりおれは、ただ抗議したのでは負けが見えてると思って、具体的な対抗手段を探しに首都まで出向いた。そこで会ったのが、汪だったんだ」
 リチャード・汪。ここで奴と繋がるのか。カイは目で先を促した。
「汪は、おれにだけ話したいことがあると連絡をつけてきた。牙の土地のことで、交渉したいことがあると。汪は、土地の所有者を名乗るものと話をつけたと言った。牙族の立ち退きは取り消す、その代わりの条件が……白虎を渡し、おれが研究に協力することだった」
 カイが火渡を盾にされたのとまったく同じ状況だ。強力な[[rb:手役 > カード]]を先に揃えてから、手ぶらの相手をテーブルに着かせる。これは断じて交渉などではない。有利な立場から不利な相手にYesと言わせる、実質の脅迫にして服従の強制。これが汪のやり口なのだろう。
「おれは、ひとまず汪についていくことにした。いま村を追い出されたら、牙の皆は行く先がない。考えてみれば、国だって、いまとなっては牙族を囲っておく理由が無いからまったく頼れない。過去の秘密をにぎられているとすら、考えているかもしれないのだから」
「……そうか、それで貴様は汪に協力することにしたのだな」
 故郷の行く末を一身に背負わされたかたちだ。一体、誰がレイを責められるだろうか。
 一番辛いのは、半身も同然の白虎を差し出すことを選ばされた、レイ自身だろう。カイは厳粛な気持ちで事情を受け入れた。
「いや、おれは汪に是とも否とも返事をしていないが?」
「何?」
 ところがレイは何食わぬ顔でしれっと言い放った。
「おれが汪に協力すれば、確かにいっときは村を救うことになるだろう。だがこのような方法では、根本的な解決にはならない。同じような問題が、また必ずおこる。そう考えたから、おれは汪について行くがしばらく検討する時間を寄越せと言った」
「……正直、思慮の深さに驚いているし、冷静な判断だと思う。だが、汪がそれを許したのか?」
「おれは譲る気は無かったから、それ以外の言葉はぜったい言わなかった。あと書類に名前を書かせられそうになったのとかも全部むししてたら、いつのまにか向こうが黙ったぞ」
「お、おお……そうか……」
 汪よ。恐らくレイのことを田舎の小僧くらいに思っていたのだろうが、これが金李だ。カイは自身もこのパワープレイぶりに度々振り回されていることなどすっかり忘れて、密かに鼻を鳴らした。
「続けるぞ。おれは汪のところの会社にしばらく招かれた。汪は無理やり言うことを聞かせようとすることは無かった。むしろ、研究や事業の意義とすばらしさを説いてきた。自分の仕事に連れて歩いたりな。不思議なことに、ビットチップだけうばわれるようなことはされなかった」
「……なるほど」
「で、いつまで時間を稼げるかと思ってたが……そうこうしてるうち、カイ。おまえが香港に来た。いや、汪の手引きで連れて来られた。それが今日だ。まさか、一番動かしづらいだろうお前を香港に来させるとは、さすがに予想してなかった。汪は、裏でずっと準備を進めていたんだな……」
 カイとレイ、チームメイト同士を人質にするかたちで、二人まとめて決着をつけるためこの日を設けたのだ。汪らしい[[rb:合理 > いやらし]]さだ。
「結局、何の解決策も思いつかないまま、時間だけ引き延ばした結果がこのざまだ。おれの責任だ。だからカイ、おまえは無事に日本に帰したかった」
「昼間の人間ジェットコースターの理由はよくわかった。だがレイ、これは貴様が一人で解決できるようなものでは……」
「それに、カイだけは絶対に汪に渡すわけにはいかなかった。タカオやマックスたちのこともあるからだ」
「!」
「汪が本気で四聖獣を集めたいと思っているなら、ごく普通に暮らしているタカオたちを狙う方が早い。それをしなかった……否、できなかったのは、日本では火渡の目があるからだろう」
「……」
「違うか?」
「……別に監視しているわけじゃないぞ」
「わかっている。仲間を守ろうとするのは立派なことだ……ん、顔赤いな?」
「うるさい、黙れ、何で知っているんだ。貴様は昔の牙族の仕事の方が向いているんじゃないか、この農家詐欺」
「もっとゆっくりしゃべってくれ」
「いきなり外国人仕草するんじゃない」
「はは」
 今日初めて、レイが牙を見せて笑った。つられてカイも肩の力が抜ける。
 レイが背負っているもの、深く考えていること、大事にしているもの。それの重さが、今の火渡カイには理解できる。ゆえに分かる。レイはカイを日本に帰して、自分ひとりでこの状況に立ち向かおうとしている。
 ゆっくり息を吐いたことで、カイの頭に急速に血が巡り始める。これから先、自分たちがとるべき最善手はいったい何なのか。これを考えるため、今度はカイが、レイに腹の内を晒す必要がある。
 カイは、レイが知らないであろう情報を持っている。そして、生きてきた環境が違う故の、新しい視点も。
 カイは塀に預けていた体を起こし、レイとまっすぐ向かい合った。
「レイ。ことは貴様が思っているより深刻だ」
「何?」
「睨むな。貴様の考えを軽んじているのではない――手を出せ」
 カイはおもむろに右手を差し出した。レイは一瞬たじろいていたが、カイの真剣な表情を前に、すぐに服の裾で手を拭ってから、それはそれは力強く握り返した。
「骨折る気か貴様は!普通に握手しろ普通に!!」
「力くらべじゃないのか?ライとよくやるんだが」
「あの猫か猿……えー、あー、マオとかキキにやるような加減にしろ……そうだ。力を入れるのは手じゃない。腹の底だ」
「腹の底?」
「丹田と言えばわかるか。ものは試しだ。俺からやる」
「何を……?」
 戸惑うレイを置いて、カイは自身の体の中心に意識を向ける。
 そこに、赤い灯火が見える。目では見えない。しかし確かに、身を焦がさんばかりの熱を持って存在しているのが分かるのだ。その火をさらに燃え上がらせるイメージでぐっと身体に力を込めた。
 その瞬間、カイの額に赤いエンブレムが輝き――それだけでなく、周囲には火花が弾け、小さな炎が華のように二つ三つと咲いて消えた。レイはその不可思議な現象に一瞬顔を上げたものの、視線はすぐにカイと握り合った手に向いた。大きな目を限界まで見開き、瞳孔は三日月のように細まっている。
「レイ」
「……ああ、カイ。いま、この手を通して確かに感じた。お前から流れてきたこれは……朱雀の力だ」
「そうだ。結論から言おう。俺たち四人、四聖獣を持つものは特に、聖獣の力の影響を受けている。意識しないと気づけないが、見た通りだ」
「!」
「この現象のロジックは説明できない。だが、俺たちはもはや聖獣と表裏一体の存在なのだ、という裏付けになると俺は考えている」
「そんな、ことが……」
「恐ろしいことだと思うか?」
 レイは即座に、首を横に振った。
「俺も悪いことだと思っていない。傍から見れば、俺たちが聖獣と同化してしまうように見えるかもしれないが、決してそうでは無い。感覚で分かる。聖獣とおれたちは、ただ陰と陽、光と影のような対の関係なのだと」
「………」
 レイは微動だにせず聞きいていたが、最後のカイの言葉にはしっかりと頷いていた。レイの白虎への思いを、カイは正確に言語化してみせていた。
「ここまで影響が及んでいる対の片方を失えば、何が起こるかわからない。俺たちが聖獣と分かたれるかもしれないと考えたとき、心に去来する壮絶な喪失感はきっとその予兆なんだ。ここまでは伝わっているか?」
「……ああ、わかる。かつて白虎と離されたとき、心臓をもぎとられた気分だった」
「そして昔より影響が進んだ今は、『気分』だけではきっと済まされない。何かしらの深刻な影響は免れないだろう。それは、聖獣側も恐らく同じだ」
 カイやレイたち人間を通して力を発露させる聖獣もまた、対となる存在なくしては成り立たない。これが聖獣という存在の摂理、自然そのものなのだ。
「ここから本題だ。俺たちと聖獣は離すことはできない。だから汪に聖獣を渡すということは、俺たち自身もくれてやることになる。万が一にも、聖獣だけ渡しておわる話ではない――わかるか、レイ。これはゆくゆくは、聖獣を持つもの全てに連なる問題になる。同じ四聖獣を持つBBAも、[[rb:牙族 > かぞく]]もだ!」
「……!」
 仲間を守るため、さいあくは己の身だけで済まそうと考えていたレイにとって、カイの言葉は霹靂のように突き刺さった。
「俺と朱雀だけが汪の手から逃れたとしても無駄なんだ。レイ、貴様が万が一奴の手に落ち、聖獣の力がエネルギーに転用できる理論が確立したら……何十億の人間の活動を支えるエネルギーの運用には、世界中の聖獣と、その対となる人間が必ず必要になる。しかし聖獣とともに歩む者なら皆、聖獣を物のように扱うことなど許すはずが無い。だから、そんな対となる人間を無理矢理従わせるか、あるいは……」
「っ、そんなことが、あっていいはずない!!」
 レイの叫びとともに、幾筋もの白光が空中を奔った。それは雷と呼ぶには弱く、しかし静電気と言うには激しい輝きだった。レイの額に浮かぶ獣のエンブレム、そして握られた右手を通して、カイは確かに感じた。レイから溢れる、白虎の力を。
「……レイ。自覚が無いかもしれないが、聖獣の影響を一番濃く受けているのは恐らく貴様だ。昔からその片鱗はあった。そんな貴様と白虎が汪の手に渡り、研究が進むことは、絶対に許されない。仲間たちを守りたいなら、まず貴様自身を守れ」
 レイは自身から迸った白虎の力を、呆然と眺めていた。それから、左手で胸元を握りしめた。そこには[[rb:白虎 > ドライガー]]がいて、その下には己の心臓が脈打っている。
 風が吹き、夕暮れから固まっていた雲を散らす。ちょうど昇り始めた月が、下界から切り離された高台に立つ二人を照らし始めた。
「レイ」
 揺らいでいたレイの視線がふらりとカイに向けられた。カイの紅い瞳は、暗闇の月光よりなお強い光を湛えて、まっすぐと金の瞳を射貫いていた。
「レイ、貴様の事情は理解した。一族や仲間をどれだけ案じているかもな。だがその上で言わせてもらう。この件を一人で解決しようとするのは愚策だ。いま最も選んではいけない手段だ。一人で足掻こうとするほど、貴様が守ろうとしているものへのリスクが高まっていく。これが現状だ」
「……っ、だが、」
「貴様は確かに強い。一人で大抵のことは熟せるのだろうし、貴様に守られてきたものも多いだろう。だが、致命的に欠けている視点がある。所詮、人ひとりの手の数や腕の長さは決まっているということだ」
「……おれの、力不足か」
「そうだ。人ひとりの限界だ。そしてまんまと蛇の術中にかかり、香港まで来た俺も然りだ」
 カイは汪と関わってからずっと腹立たしさを燻らせていた。それは誰にでもない、己の不甲斐なさに向けられたものだ。自己の慢心に対してだった。レイに向けた言葉はそのまま、自身への言葉だった。独りよがりは昔からの悪い癖だ。
 ただし、昔の火渡カイとは決定的に違う点がある。それはBBAライジングとして最高の好敵手たちとともに闘ってきた経験、そして火渡グループ代表として、何千という人間と関わり、支え支えられ、ひとつのものに向かって組織として走り続けている大人としての経験が、カイを何倍も大きい男に育て上げていた。
「レイ。もっと簡単に考えろ。使える手が一気に何十倍にもなる方法があるんだぞ」
「……?」
「阿呆、お前の目はでかいガラス玉か。目の前だ、目の前」
「火渡カイが、いる」
「そうだ。そして俺の先には何千という人間や組織のネットワークがある。そんな火渡カイを使わない理由があるのか?」
 レイはぽかんと口を開けていた。まるで発想が無かったとでも言うような顔だ。
「貴様は守るものを後ろに庇ってばかりで、隣に立たせようとしないのが悪い癖だな。最悪なのは、この俺を自然とそこに含めていたことだ。屈辱にも程がある」
「だが……しかし二人でどうやってこの状況を打ち破ると」
「ビジネスも揉め事も、例えるなら『川の上流』を掌握するのが鉄則だ。今回は汪の影響力の源泉を探して叩きに行く」
「そんな事が可能なのか」
「うちの香港支部長が言っていたんだ。汪の名前はある日突然、聞くようになったのだと。つまり財閥の出身などではない、何かを地盤にのし上がって日が浅い人物だと推測している。であれば、その土台は盤石ではない。綻びの一つでも見つかれば、そこを突いて汪を失脚させてやる。聖獣のエネルギー化プロジェクトは、A社肝入りに見せかけて汪のワンマン企画だろうからな。A社は腰が重いし、あいつはそういうタイプだ、絶対」
 カイの頭脳がフル回転し始める。朱雀だけではない、レイを通して白虎の力が身体を駆け巡った瞬間から、細胞ごと活性化でもしたかのように調子がいい。聖獣と、その対として適性のある者はやはり影響し合うのだろうか。
「カイ、」
「汪は火渡グループの再来期の中国事業を押さえた気でいるだろうが、俺が手元から失踪している以上、カードを温存するため派手な動きは避けるだろう。それとも炙り出すために手をつけるか?上等だ、その前にケリをつけてやる。どうせ香港からしばらく出られないからな」
「カ、イ!!」
「いっっっっっ!?」
 絶好調に突き進むカイの思考は、レイの握力で急停止した。
「だから骨折る気かと何度……」
「カイ。おれは、カイを使わせてもらう。その代わり、カイもおれを使え」
 自由を是とする虎からの発言に、だがカイは驚かなかった。それは従属でも服従でもなく、対等な者同士が交わす言葉だと、繋いだ手からしっかりと伝わってきたからだ。
 それに、一緒に頑張ろうなどという言葉は、似合わない。お互いに。

「勝つぞ、カイ」
「ふん。当然だ」

 右手を交わしている二人の間を、清涼な一陣の風が吹き抜けた。二人しかいない高台は喧噪も遠く、月と星明かり、はるか遠くのさざ波だけがこの邂逅を見守っている。
 十年。スタジアムの上で視線を交わしていた二人は、いま初めて、まったく同じ地平に立ったのだった。

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「……レイ、ところで、」
「カイ。おれには、汪がお前を香港に呼び出せたカラクリすらさっぱり分かっていない。こんなのでは、確かに汪に太刀打ちできないな……」
「そ、それは、生きている環境が違っているのだから仕方ないことだろう。俺は汪と同じフィールドで仕事しているというだけで……というか、レイ、」
「汪は気に食わないが、やはり世界にはまだまだ知らない、おもしろいことが待っているのかもな……」
「おい」
「ん、なんだ?」
「……手………………」 
「手?ああ、繋ぎっぱなしだったな」
「おま、きさま、何故両手で握りこむんだっっ!!!」
「リスペクトの念をせいいっぱい伝えただけだが」
「急に英語使うな!!!」
「(おもしろい……)」

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